〇専門検討会で報告書案
厚生労働省は、精神障害の労災認定基準の見直しに向けた専門検討会の報告書案を明らかにした。請求件数が大幅に増加するなか、審査を迅速・適切に行えるようにするため、業務上の心理的負荷に関する評価項目を追加・整理した新たな評価表を盛り込んでいる。評価項目の1つに、カスタマーハラスメントを追加した。パワーハラスメントに関しては、性的指向・性自認に関する精神的攻撃も対象になることを明確化した。
同検討会は、社会情勢の変化や精神障害の労災認定の請求件数増加を踏まえ、平成23年に策定された現行の認定基準全般を検証するために設置されたもの。最新の医学的知見や過去の決定事例、裁判例を参考に、認定要件や評価項目などの検討を進めてきた。
5月30日の会合で厚労省は、心理的負荷に関する新たな評価表を盛り込んだ報告書案を提示している。
労災審査では、精神障害発症前のおおむね6カ月以内に起こった出来事の心理的負荷の程度について、客観的な基準を示したリスト(評価表)に基づき評価し、業務起因性の有無を判断している。
新評価表では、社会情勢の変化に応じ、評価対象となる項目を追加する一方、細分化されていた項目を一部統合し、遭遇した出来事を評価項目に当てはめやすくした。
現行の評価表と同様に、業務による強い心理的負荷が認められるケースは、負荷の総合評価を「強」と表記し、強い負荷が認められないケースは「中」または「弱」とした。心理的負荷が極度に強い出来事や、極度の時間外労働は引き続き「特別な出来事」に位置付け、負荷の総合評価を「強」として扱う。
特別な出来事以外については、評価対象になる具体的出来事ごとに、想定される平均的な負荷の強度を「Ⅲ」~「Ⅰ」の3段階で示した。さらに、負荷が「強」「中」「弱」と判断されるケースをそれぞれ例示している。
新評価表では、「対人関係」に関する具体的出来事として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)を追加。平均的な負荷の強度は「Ⅱ」とした。治療を必要としない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していないケースの負荷は「中」と評価する。一方、治療が必要な程度の暴行を受けたり、執拗な暴行を受けたりするケースは「強」と判断する。
具体的出来事の1つであるパワハラに関しては新たに、性的指向・性自認に関する精神的攻撃を含むことを明記した。
「仕事の質・量」に関する具体的出来事には、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務への従事」を加えた。平均的な負荷は「Ⅱ」とした。
労働新聞社『労働新聞』 令和5年6月12日第3404号1面 掲載記事より
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