top of page

労災支給取消し訴訟 特定事業主の原告適格認める 地裁に審理差し戻し 東京高裁

  • 執筆者の写真: 里絵 渡邉
    里絵 渡邉
  • 2022年12月22日
  • 読了時間: 3分

〇保険料で不利益被る恐れ

 一般財団法人あんしん財団が職員に対する労災支給処分の取消しを求めた裁判で、東京高等裁判所(鹿子木康裁判長)は同法人の原告適格を認め、審理を東京地方裁判所に差し戻した。メリット制の適用がある特定事業主は、労災支給処分によって当然にメリット収支率が上がり、次々年度以降の保険料が増額される可能性があると指摘。直接具体的な不利益を被るおそれがあり、処分取消しを求める適格性があると判断した。一方、労働保険料の認定処分については、保険料額認定に至るまで訴訟で争えないのは合理的ではないとして、原告適格を認めなかった。

 裁判を起こしたのは中小企業向けの福利厚生、労災防止などの特定保険業を営む一般財団法人あんしん財団(東京都新宿区、山岡徹朗理事長)。同法人で働く職員に対する、札幌中央労働基準監督署長による平成30年9月14日付と令和元年10月2日付の労災支給処分の取消しを求めていた。

 労働保険徴収法は、事業の継続性と規模の要件を満たす特定事業主に対し、連続する3年度における労災保険給付額に応じて保険料を±40%の範囲で増減させる、メリット制を適用している。保険料額に差を付け、事業主の労災防止の取組みを促すのが狙いで、給付実績は次々年度以降の保険料額に反映される。

 一審の同地裁は同法人の原告適格を認めなかった。労災保険法は労働者保護のみが目的であり、事業主の利益を考慮しないことが前提となっていると指摘。特定事業主の労働保険料に関する利益を保護しているとはいえず、取消しを求める適格性はないとした。

 一方、労働保険料の認定処分については、原告適格の可能性があるとした。労災給付が取り消されていない場合であっても、保険料の認定処分の取消しを求めるに当たり、労災支給処分の違法性を主張する余地があるとしている。

 二審の同高裁は、特定事業主は労災支給処分の取消しを求める原告適格を有すると判断し、審理を同地裁に差し戻した。労災支給処分が下ると、給付額に応じて当然にメリット収支率が上がり、次々年度以降の保険料額が増える可能性があると強調。直接具体的な不利益を被るおそれがあるとして、処分の取消しを求める法律上の利益があるとした。同職員への労災支給により、同法人の令和2~5年度の保険料額は、計758万7198円増えることが見込まれており、不利益が小さくないとしている。

 労働保険料の認定処分については、一審と異なり、特定事業主が後行の処分である保険料額認定まで、争訟の提起という手段が執れない合理的理由はないとして、原告適格を認めなかった。仮に、労働保険料の認定処分を取り消す判決が確定すると、先行処分である労災支給処分も取り消されることになり、労働者保護を著しく害する結果になるとしている。

労働新聞社『労働新聞』 令和4年12月19日第3381号2面 掲載記事より

 
 
 

最新記事

すべて表示
「賃上げ5カ年計画」「中小生産性向上」など表明/新しい資本主義実現会議

政府は14日、新しい資本主義実現会議を開催し、中小企業の賃上げを促進する「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5カ年計画」等を議論した。会議後、首相は 「賃上げこそが成長戦略の要」とし、2029年度までに実質賃金1%上昇を目指すとし、中小企業・小規模事業者の経営変革の後押し...

 
 
 
地方や中小企業での良質な雇用の在り方について提言/労政審部会報告

厚生労働省は8日、「労働政策基本部会報告書-急速に変化する社会における、地方や中小企業での良質な雇用の在り方」を公表した。、AIの進化による社会構造の変化や人口減少社会を見据え、地方や中小企業における課題等について検討した結果をまとめている。地方における賃金等の労働条件の低...

 
 
 
100億企業への飛躍的成長を後押し、ポータルサイトをオープン/中小企業庁・中小企業基盤整備機構

中小企業庁及び中小企業基盤整備機構は11日、売上高100億円を目指し挑戦する企業・経営者を応援するプロジェクトの特設サイト「100億企業成長ポータル」をオープンした。「中小企業成長加速化補助金」「経営者ネットワーク」など飛躍的成長をサポートする施策情報や事例発信、「100億...

 
 
 

Comments


  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

©2021 by あだち社会保険労務士事務所。Wix.com で作成されました。

bottom of page