〇保険料で不利益被る恐れ
一般財団法人あんしん財団が職員に対する労災支給処分の取消しを求めた裁判で、東京高等裁判所(鹿子木康裁判長)は同法人の原告適格を認め、審理を東京地方裁判所に差し戻した。メリット制の適用がある特定事業主は、労災支給処分によって当然にメリット収支率が上がり、次々年度以降の保険料が増額される可能性があると指摘。直接具体的な不利益を被るおそれがあり、処分取消しを求める適格性があると判断した。一方、労働保険料の認定処分については、保険料額認定に至るまで訴訟で争えないのは合理的ではないとして、原告適格を認めなかった。
裁判を起こしたのは中小企業向けの福利厚生、労災防止などの特定保険業を営む一般財団法人あんしん財団(東京都新宿区、山岡徹朗理事長)。同法人で働く職員に対する、札幌中央労働基準監督署長による平成30年9月14日付と令和元年10月2日付の労災支給処分の取消しを求めていた。
労働保険徴収法は、事業の継続性と規模の要件を満たす特定事業主に対し、連続する3年度における労災保険給付額に応じて保険料を±40%の範囲で増減させる、メリット制を適用している。保険料額に差を付け、事業主の労災防止の取組みを促すのが狙いで、給付実績は次々年度以降の保険料額に反映される。
一審の同地裁は同法人の原告適格を認めなかった。労災保険法は労働者保護のみが目的であり、事業主の利益を考慮しないことが前提となっていると指摘。特定事業主の労働保険料に関する利益を保護しているとはいえず、取消しを求める適格性はないとした。
一方、労働保険料の認定処分については、原告適格の可能性があるとした。労災給付が取り消されていない場合であっても、保険料の認定処分の取消しを求めるに当たり、労災支給処分の違法性を主張する余地があるとしている。
二審の同高裁は、特定事業主は労災支給処分の取消しを求める原告適格を有すると判断し、審理を同地裁に差し戻した。労災支給処分が下ると、給付額に応じて当然にメリット収支率が上がり、次々年度以降の保険料額が増える可能性があると強調。直接具体的な不利益を被るおそれがあるとして、処分の取消しを求める法律上の利益があるとした。同職員への労災支給により、同法人の令和2~5年度の保険料額は、計758万7198円増えることが見込まれており、不利益が小さくないとしている。
労働保険料の認定処分については、一審と異なり、特定事業主が後行の処分である保険料額認定まで、争訟の提起という手段が執れない合理的理由はないとして、原告適格を認めなかった。仮に、労働保険料の認定処分を取り消す判決が確定すると、先行処分である労災支給処分も取り消されることになり、労働者保護を著しく害する結果になるとしている。
労働新聞社『労働新聞』 令和4年12月19日第3381号2面 掲載記事より
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