〇勤怠システム導入後は
外資系製薬会社で外勤の医療情報担当者(MR)として働いていた労働者が、残業代などの支払いを求めた裁判で、東京高等裁判所(村上正敏裁判長)は事業場外みなし労働時間制の適用を認めない判決を下した。勤怠管理システムの導入後は直行直帰が基本のMRについても、始業・終業時刻の把握が可能になったと指摘。労働時間を算定し難いときに当たるとはいえないとした。一審の東京地方裁判所は、具体的な訪問先やスケジュールは労働者の裁量に委ねられており、上司の指示・決定もなかったとして、事業場外みなし制の適用を認めていた。
労働者は平成29年9月に韓国の製薬会社の子会社であるセルトリオン・ヘルスケア・ジャパン㈱(東京都中央区、キム・ホウン代表取締役)に入社し、首都圏エリアの医療情報担当者(MR)として働いていたが、令和2年3月末に退職した。退職前の労働条件は年俸が727万円で、年俸のなかには月40時間分に相当する固定残業手当が含まれていた。
MRの業務は同社が製造する薬の情報を医療機関に提供し、薬の有効性や安全性に関する情報を医療機関から収集するもので、基本的には自宅から訪問先の医療機関に直行し、業務終了後は直帰する勤務形態だった。同社は外勤のMRは労働時間が算定できないとして、事業場外みなし制を適用していた。
同社は平成30年12月に、従業員の労働時間を把握するための勤怠管理システムを導入した。同システムの導入により、備品である貸与スマートフォンから出退勤の打刻が可能となった。打刻場所が把握できるよう、位置情報をONにした状態で打刻するよう従業員に指示していたが、MRについては正確な勤怠管理が不可能として、導入後も事業場外みなし制の適用が続いた。
一方、月40時間を超える時間外労働が発生する場合には、事前に時間外労働の申請をさせ、エリアマネージャーが時間外労働の必要性を判断していた。必要性が認められた場合は、エリアマネージャーの具体的な指示のもとで業務を進め、業務内容を報告させたうえで、割増賃金を支払う運用を採用していた。
一審の同地裁は事業場外みなし制の適用は有効と判断し、労働者の請求をすべて棄却した。MRの業務は直行直帰が基本であり、具体的な訪問先やスケジュールも労働者に委ねられていたと指摘。提出を指示されていた週報についても、内容は極めて軽易で、何時から何時までどのような業務に従事していたかを報告させるものではなかったとして、勤務状況を具体的に把握することは困難だったとした。
二審の同高裁も引き続き労働者の請求をすべて棄却した。労働時間について、週報の内容や勤怠の打刻場所の大半が自宅であった点、在職中に時間外労働の申請をした実績がない点から、時間外労働に従事したとは認められないとしている。他方で事業場外みなし制については、同システム導入後の平成30年12月以降は労働時間を算定し難いときに当たらないとして、適用を認めなかった。
同システム導入後は、月40時間を超える時間外労働に対して、事前申請させ、エリアマネージャーの具体的な指示のもとで業務に従事させており、所定労働時間内についても同様の運用が可能だったと指摘。日報の提出を求めたり、週報の様式を変更すれば、業務内容や休憩時間を管理できたとしている。仮に打刻した始業時刻や終業時刻の正確性に疑問があれば、貸与スマートフォンを使い、業務の遂行状況を随時報告させたり、指示するのも可能だったとした。
【令和4年11月22日、東京高裁判決】
労働新聞社『労働新聞』 令和4年12月5日第3379号2面 掲載記事より
Comments